扇子と落語の親密な関係
日本に古くからある大衆芸能で、誰もが気軽に楽しめる落語。
噺家さんたちそれぞれの独自の風刺やユーモアを交えた噺を聞かせ、楽しませてくれる落語は2024年現在でも人気が高い演芸として確固たる地位を築いています。
そんな、大半の日本人であれば知っている落語と扇子は実はとても深い関わりがあるのです。
このページでは、落語と扇子の関わりについてご紹介していこうと思います。
落語の歴史と起源
落語の起源は、室町時代後期から江戸時代初期にかけての「御伽衆(おとぎしゅう)」の夜話にさかのぼるといわれています。
御伽衆とは、将軍や大名の側近であり、話し相手だった人々のことを指します。彼らは戦にも同行し、行軍や大名以外に、敵襲にそなえて夜通し起きている兵たちにも眠気が覚めるよう、武勇伝などに思わず笑ってしまう「オチ」をつけた面白話をしていたといわれており、これが落語の起源だとされています。
また、一説によると、落語の祖とされる安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)は、豊臣秀吉の御伽衆でもあり、彼が著した笑話集『醒睡笑(せいすいしょう)』には、現在でも演じられている古典落語の噺が多数収録されており、この笑話集が落語の形式に大きな影響を与えたと考えられています。
江戸時代に入ると、庶民の娯楽としてこの笑話はほより一層盛んになり、寄席場も多く誕生しました。明治時代になると「落語」という呼び方が一般に定着し、ラジオやテレビなどのメディアによってさらに大衆に広まり、現在のような多くの人々に親しまれる大衆芸能としてのポジションを獲得するようになったのです。
落語で使用する道具
落語は着物を着た人が座布団に座ったまま噺をするというとてもシンプルな演芸です。演劇やコントのように特別な衣装や小道具は使わず、噺に登場する複数の人物を一人で全て演じるという、とてもシンプルですが同時に高度な話術と演技力が要求されます。
そんな落語で噺家さんが使用できる数少ない道具が扇子と手ぬぐいです。尚、関西の上方落語では扇子と手ぬぐい以外にも、見台・膝隠し・小拍子といった小道具が使われることもありますが、ここでは関東の江戸落語で使われる扇子と手ぬぐいに絞って、実際に落語の中でどのような使われ方をしているかをご紹介していこうと思います。
落語での扇子の使われ方
噺家さんが落語で使用する扇子は「高座扇子」や「かぜ」と呼ばれ、通常私たちが使っている夏扇子より大きめの7寸5分(23cm)でしっかりと頑丈に作られています。理由としては仰いで涼をとる以外にも、落語の見立て道具として使用されることが多いからです。
落語の高座で扇子はモノの見立てとして使われるため、観客が扇子を極力意識しないよう、扇面は無地で絵や文字が書かれておらず、紙の色も白かベージュのシンプルなものが大半です。
実際の演目では、煙管(キセル)・箸・棹・櫓・釣り竿・刀・槍・傘・お銚子など、様々なものに見立てて使われます。
■落語の高座で扇子が見立てるモノ
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- お箸
- 扇子の柄の部分を持ち、本物のお箸のように見立てて食べ物を食べる演技をします。お箸(扇子)を持っているほうの手だけではなく、持ってない方の手も下に添えることで、よりリアルに物を食べている様子を表現することができます。お蕎麦を食べるシーンが必ず入る「時そば」はとても有名な演目です。
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- キセル
- キセル(タバコ)はお箸と同様かそれ以上に落語の演目の中で頻繁に登場します。扇子といえばキセルというほど、噺家さんにとって基本中の基本の見立てです。同じタバコを飲む仕草でも、飲み方を使い分けることで、登場人物のキャラクターを表現することができます。例えば、武士はキセルを自分の口に運び鷹揚にプカリとゆっくり吸う、民百姓はキセルの吸い口に自分の口を運びプカプカ忙しなく吸う、吉原の花魁は長キセルを斜に構えてやや斜めに二三口程度プカ~リと長めに吸うという具内にキャラクターの属性によって微妙な変化を持たせることで登場人物の個性をより際立たせることができるのです。
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- 釣り竿
- 扇子を釣り竿に見立て、釣り糸を池や川に投げ込む様子を臨場感たっぷりに表現します。古典落語の中でも「野ざらし」「唖のつり」「穴釣り三次」など、釣りを題材にした演目は数多く存在します。
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- 筆
- 古典落語の舞台となる江戸時代頃は、書き物はすべて筆と墨を使って行っていました。落語の演目の中にも、手紙や証文を書く場面が頻繁に登場します。筆を扇子で、紙を手ぬぐいで見立てることでよりリアルに表現することができます。
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- 効果音
- 扇子は落語の演目で、見立て道具としてだけではなく、効果音としても使用されます。例えば、扉や門を叩く様子を表現する場面では、右手で扉や門をノックする様子を表現しながら、左手に扇子を持ち床を扇子の根の部分で強く叩いて音を出すことで、臨場感のある表現をすることができます。
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- その他様々なモノ
- 扇子は噺家さんによってあらゆるモノに変幻自在に見立てられます。例えば、とっくり・杯・刀・槍・なぎなた・天秤・籠の担ぎ棒・門番の棒・カナヅチ・そろばん等の他に、新作落語ではスマホ・パソコン・マウス等に見立てられることもあります。
扇子は変幻自在に様々なものに見立てられます。演技によって、ただの一本の扇子から極上のお酒・タバコ・お蕎麦を観客に想像させることができる噺家さんの技術には脱帽するばかりです。また、扇子を同じお箸やキセルに見立てて使うにしても、噺家さんによって表現方法も特色も各々で異なるため、噺家さんの扇子の使い方ピンポイントに注目してみることで、一味違った落語の楽しみ方ができるはずです。
落語での手ぬぐいの使われ方
手ぬぐいも扇子と同様に、落語の演目中に活躍する小道具として欠かすことができません。
噺家さんの間では「まんだら」とも呼ばれることもあり、噺家さんが汗を拭うためだけではなく、様々なモノに見立てて使われます。
見立てられる代表的なモノとしては手紙・財布・煙草入れなどがあります。縦長にたためばよりお財布っぽく見えますし、開いて両手で持てば本を読んでいる様子を表現することが可能です。他にも筆に見立てた扇子でサラサラと手紙を書く様子を表現する際に紙に見立てたりと、扇子と同様に噺家さんのアイディア次第で小道具として様々なモノに見立てて使うことができます。
また、噺家さんたちは各々でオリジナルの手ぬぐいを製作しており、真打に昇進した際には名刺代わりにオリジナル手ぬぐいを配ることもあります。色やデザインもそれぞれに個性があり、物販品として販売されることも多く、落語愛好家のなかではコレクションアイテムとしてもとても人気です。
噺家が真打に昇進した際に配布する
落語の演目中に使用する小道具など、落語家の商売道具として欠かせない扇子は、噺家さんが真打に昇進する際に、ご贔屓の方々や関係者に対して感謝の気持ちを込めて配られる贈答品としても使用されます。扇子の他にも手拭いや口上書といったアイテムをセットにして贈答される場合もあります。
噺家さんにとって、真打昇進は大変重要なステップであり、その際にに配る扇子は、新たな地位を祝うと同時に、ご贔屓の方々や関係者にこれからの自身の活躍に期待してもらうための決意表明の意気も込められています。
贈答する扇子には、真打昇進を祝う「寿」の文字や、一門の紋などがあしらわれた特別感があるデザインが施されます。また、扇子に使用する材質にもこだわる場合が多く、高品質な越前和紙など、長く大切に使える上等な扇子で作られるケースが多いです。
まとめ
キラメックは、落語家さんが真打に昇進した際に、ご贔屓の方にお配りする挨拶用のオリジナル扇子以外にも、多種多様なオリジナル扇子のオーダーメイド製作を承っております。また、オリジナル手ぬぐいのオーダーメイド製作も承っておりますので、オリジナル扇子とてぬぐいのセット製作などお客様のご要望がざいましたら、お気軽にご相談ください。