扇子の種類や使用方法
日本の文化を象徴する道具として日本国内をはじめ、世界でも抜群の人気と知名度を誇る扇子。
しかし、扇子と一口に言っても、様々な種類が存在していて、名称や特徴もそれぞれに異なるということは意外と知られていないのかもしれません。
細かいことかもしれませんが、扇子の種類や特徴をより深く知ることで、目的や用途に合った、楽しくてスムーズな扇子選びの一助になれば幸いです。
扇子の種類と使用方法
平安時代に誕生した扇子は、現在の令和までの長い歴史の様々な場面で、少しずつ形を変えながら使用され続けてきました。
その種類は数え切れないほど膨大なため、このページでは代表的な扇子の種類や使い方を抜粋してご紹介しようと思います。
檜扇・桧扇(ひおうぎ)
檜扇は檜の薄片を末広がりに綴り合わせて、手もとに要をつけ、骨の先に近い部分に絹の撚糸で編み綴った板扇です。
扇子が誕生した平安時代の段階で普及していたのが、檜扇だといわれています。
当初は男性貴族が公の場で束帯を着用するとき右手に持つ細長い薄板、笏(しゃく)として使用されるようになりました。檜扇は宮中での複雑な作法を書き留めておくためのメモ帳としても活躍していたと言うことです。
次第に扇面が上絵で飾られたり、形状が洗練されていくと、宮中女子の間にも広がるようになり、おしゃれなアイテムとして宮中の女人が常に手にするようになりました。女性からの人気が高くなるにつれて、装飾はより一層彩り華やかになり、矯数(骨数)が多いアイテムなども登場し、広く普及していったとされています。
草花や人物などが彩られ、表には金銀箔なども散らし、美しい彩糸を長く垂らした優雅で繊細なおしゃれアイテムとして人気を博していたということです。
尚、東寺の千手観音像の腕の中から発見された元慶元年と記された物が、我が国最古の檜扇といわれています。
蝙幅扇(こうもりおうぎ)
名前の通り、コウモリの広げた翼にヒントを得て作られたとされています。
檜扇に次いで古く、平安時代から作られ始めた紙扇で、竹を骨として片面に地紙(扇面用紙)を貼ったいわゆる片貼扇で、最初は骨の数も5~6本ぐらいだったといわれています。
蝙幅扇は、あおぐという扇本来の役割だけに留まらず、儀礼や贈答、コミュニケーションの道具としても用いられるようになります。それに伴って、金銀泥箔に彩画・詩歌がしたためられ色紙の粋を尽くし、骨数も次第に増えていきました。
より一層つくりが華美になり、骨の両面に紙を貼るようになった蝙幅扇は、今日の扇子の原型といっても過言ではありません。
白檀扇子(びゃくだんせんす)
希少性が高く、高級な香木として有名な白檀(びゃくだん)から作られた扇子です。
別名でサンダルウッドと呼ばれる植物で、線香などのお香の材料として使われています。木材そのものが、ウッディ調で甘さのある優しい香りを放つ白檀は、香料として使われるだけでなく、仏像彫刻や数珠などの材料としても用いられています。
白檀の木が成長して香りを放つまでには、数十年以上もの時間がかかり、更に白檀の原産国であるインドが輸出を規制しているため、白檀は希少性が高く、高級な香木として知られています。
白檀扇子は扇子を仰ぐたびに、甘く上品な香木の香りが楽しめるだけでなく、見た目も透かし彫りや描き絵による装飾を施した木製の扇面で美しく、持つ人を優雅に見せるデザインがとても魅力的です。また、白檀扇子は時間の経過にともない少しずつ香りが薄くなっていきますが、湿らせて固くしぼった布で拭き、表面の汚れを落とすことで香りが戻ってくるというのが特徴です。
希少価値が高い白檀扇子は、相場が10~20万円台と高額ですが、合成香料を使用した香りが強めの白檀扇子であれば、数百円~数千円で入手することができます。
ちなみに、中国の蘇州は白檀扇子の産地として有名です。
絹扇(きぬおうぎ)
日本で生まれて発展をした扇子が、13世紀頃に中国へ輸出され、シルクロードを渡りインドを経由してヨーロッパまで伝わりました。
ヨーロッパでは、象牙やべっこうを骨とし絹やレースを貼った洋扇子が独自に発展し、ルイ王朝社交界でも人気があったということです。
やがてヨーロッパで独自の進化を遂げた扇子が、日本へ逆輸入され、日本らしい絹や綿布を貼ることで和風の絹扇として更なる進化を遂げたのです。
絹扇子は、透け感がとても涼し気な薄い絹や布を扇面に使用しているため、清涼感がある見た目が特徴です。
しかし、実際は薄い絹や布を片面にしかはれないため、紙の扇子と比べても風量がでず、耐久性も低いため、約2年くらいが寿命といわれています。
舞扇(まいおうぎ)
舞扇は能扇と同様に室町時代以降に発展した舞踏用の紙扇です。
芸術的工芸品の域に達し、飾り扇としても世界的にも有名な扇子といえます。
いわゆる普通の扇子と材質は同じです。竹や木を使った骨が10本あり、扇面には雲・霞・水などの図柄の紙が使用されることが多いです。
舞扇の大きな特徴のひとつは、扇子の根元にある軸「要」の部分に鉛の重りが仕込まれていることです。
舞踊では扇子を投げたり、指で挟んで回す「要返し」などの動作を行ったりするため、鉛の仕込みは必須なのです。また、扇子の耐久度を上げるため、親骨と紙は糊で貼るだけではなく、糸でも結ぶことでより強化をします。
尚、扇面のデザインは無地をはじめ、各流派の流紋をデザインしたものまで幅広く存在します。例えば、舞台用に演目に沿った絵が描かれたものや、井上流のように舞扇のデザインで稽古の進度を示すなどして、デザインに意味を持たせたりすることもあります。扇子は舞踏や舞踊のディープな世界には欠かすことができない重要な道具なのです。
ちなみに、日本舞踊には必ず舞扇が用いられるというわけではなく、中啓や軍扇などの扇子が用いられる演目もあります。
能扇(のうおうぎ)
紙扇は室町時代の武家文化の勃興や町人階級の台頭により美術工芸品として、猿楽・能楽などの芸能にも用いられるようになります。
能扇は能楽で使われる扇子で、扇骨・図柄とも流派による伝統的な約束事が多く、華やかな雰囲気が特徴で、役柄や形式によっても細分化されています。
能楽で最も使われているとされている中啓(ちゅうけい)の扇は、親骨が要よりも外側に反った形をしており、折りたたんだ時に銀杏の葉のように扇の上端がひろがります。役柄によってもそれぞれ絵柄が異なり、神扇(かみおうぎ)・翁扇(おきなおうぎ)・老女扇(ろうじょおうぎ)・男扇(おとこおうぎ)・狂女扇(きょうじょおうぎ)・修羅扇(しゅらおうぎ)・尉扇(じょうおうぎ)・鬘扇(かずらおうぎ)・鬼扇(おにおうぎ)などに細かく分類されます。
続いて、親骨が通常の扇のように真っ直ぐになっていて、扇の先を強く圧し鎮めた形ということから名付けられた鎮扇(しずめおうぎ)は、後見・地謡・囃子方も着用し、仕舞や舞囃子では必ず用いられます。
他にも能楽では、いわゆる団扇(うちわ)の形をした扇も使用されます。皇帝・悪尉物・舞人等の唐めいた人物が用いる唐団扇(とううちわ)、菊慈童・一角仙人など仙人用の葉団扇(はうちわ)、天狗が用いる羽団扇(はうちわ)や魔王団扇(まおううちわ)などに細かく分類されています。
能楽師にとって能扇は、武士の刀に値するような重要な道具で、能の演者の心情や物語の展開を表現するためだけではなく、挨拶や祝いの時にも用いられていたのです。
茶席扇(ちゃせきせん)
茶の湯の会で使用される茶席扇は、能扇同様に室町時代以降、茶道の発展とともに茶席に用いられるようになった紙扇です。
一般的には婦人用五寸、紳士用六寸の長さのものが多く使われます。茶席扇は涼をとるためというよりも、茶席で膝の前に扇子を真横一文字に置くことで自他の境(結界)となり、我が身は一段へりくだる、相手を敬う気持ちを伝える所作としての役割が重きをなし、公家が持っている笏(しゃく)と同義だと考えられていました。
祝儀扇(しゅうぎせん・しゅうぎおうぎ)
結婚式などのお祝いの席で使われる礼装用扇子のことを祝儀扇と呼びます。
やや小ぶりなサイズで、縁起物だけに昔からの約束事があり、男女によって地紙や扇骨に特徴があります。
婦人用の祝儀扇は、黒塗りの骨に金銀の扇面というデザインが多く、結婚式などのお祝いの席で着用する既婚女性の第一礼装である黒留袖のほか、略礼装である色留袖や訪問着などの着物に合わせて使用します。女性の着物の場合、帯の左胸側に、扇の要を下にして少し傾けるように祝儀扇を挿します。ポイントは、扇子の紙の面は正面に向けて、帯と帯揚げの間に祝儀扇を挿し、先端が帯から2~3cmほど出るようにすることです。
一方で紳士用の祝儀扇は、白扇(はくせん)と呼ばれる、白の扇面と竹骨というシンプルなデザインが一般的で、和装の場合、白扇は第一礼装である黒羽二重(くろはぶたえ)や、五つ紋付(黒紋付)に合わせます。洋装の場合でも白扇(モーニング扇)を選び、正礼装であるモーニングコートに合わせることが可能です。基本的に祝儀扇(白扇)は右手で持ち、手をあけたい場合には、袴の内側の、角帯と着物の間の左胸側に、扇の要を下にして少し傾けるようにして、地紙が見えるように挿すのがポイントです。
尚、祝儀扇を使って涼を取るのはマナー違反なので、夏扇子のように広げて扇ぐ使い方はしないようにくれぐれもご注意ください。
軍扇(ぐんせん)
軍扇とは戦国時代の戦場で、武将が味方の武士に指示を出すために使用されていた扇子です。
軍配団扇(ぐんばいうちわ)の1種でもある軍扇は、戦国時代に数々の武将が戦場で指揮具として用いた扇で、各々の時代によって形式は異なります。各時代の軍扇で共通している特徴としては、黒漆塗りで仕上げた骨を使用していること、地紙の表面中央には金色か朱色で太陽を模した円が描かれていることが多く、裏面に月を表す円が描かれている軍扇もあります。
有職扇(ゆうそくせん)
有職扇は宮中や神社・仏閣で主に、招涼・装飾用として使われる絹や綿布を貼った扇子です。
現在でも古来からの礼式・故事に従って製造されている、数ある現存する扇子の中でも最も特殊な部類の扇子といえます。
鉄扇(てっせん)
鉄扇は扇子ではなく護身用の武器です。
武家社会では武士は護身用に常に刀や短刀を身に付けて行動をしていいました。
しかし、他人の邸宅を公式訪問したり登城先の城に出仕して室内に上がる際には、刀を持って入室することはできませんでした。
いつ誰に命を狙われても不思議ではない物騒な武家社会では、万が一に備えて閉じた扇子の形をした鉄塊である鉄扇を護身具として携帯していた人も少なくなかったということです。
飾り扇(飾り扇子)
飾り扇子はその名の通り、お部屋に飾る用の扇子です。
見た目もつくりも扇子ですが、ご自宅・飲食店・旅館などの室内に装飾するための扇子なので、あおいで涼を取るための機能性というよりも、扇面の見た目の絢爛さを重視して制作されています。
大きさも様々で、手の平サイズの超ミニサイズから、30cm以上の特大サイズまで、バリエーションが豊富です。
羽根扇子(はねせんす)
扇子を羽根で飾った羽根扇子は、日本で誕生した扇子がヨーロッパに渡った際に誕生したといわれています。
その後、ヨーロッパから日本へ逆輸入された後も、宝塚歌劇団などをはじめとしたヨーロッパ由来の歌劇や演劇・舞台の小道具やファッションアイテムとしても定着しています。
他にも1990年代の初頭に日本で流行したディスコ、ジュリアナ東京でも女性が「ジュリ扇」と呼ばれる羽根扇子を持って踊っていたという話も有名です。
まとめ
遥か昔の平安時代から現在の令和まで、時代や文化の需要に合わせて、これまでに多種多様な扇子が誕生してきました。
扇子という日本が誇る素晴らしい文化は、国内外を問わず、多数存在している扇子の愛好家達によって育まれ、これからも時代と共にアップデートを繰り返して、新たな進化を遂げながら、後世へと伝わっていくはずです。